第15回
講師 石川嘉一
みんな大事な役がある
世のため、人のために
今月は立正佼成会の創立85周年の記念の月です。私たち一人ひとりみな大事な役があると、開祖さまは「庭野日敬平成法話集『我汝を軽しめず』」(240ページから)の中で「私が四、五歳のころ、祖父におぶってもらって、よく聞かされた言葉があります。それは『世のため、人のためになる人間になるんだぞ』ということでした。その祖父は、若いころに漢方医の手伝いをしたことがあって、『南庭』という号をもらったそうです。そして、村に急病人が出ると、畑仕事の忙しいときでも応急手当などに飛びまわっていました。もちろん、無料奉仕です。
その祖父の姿を見て、私は疑問をもったことがありました。私の家はとくに裕福だったわけではありませんから、家のことをほったらかして、人のことにかまけていていいものか、と思ったのです。ところが、病気やけがを治してもらった人たちが、田畑の仕事が一段落すると、畑でとれた作物をもってお礼にくるのです。そのうれしそうな姿を見て、私もだんだんに、『人のためになるというのは、何と気持ちがよいものか』ということが、心に植えつけられていったように思うのです。
『世のため、人のためになる人間になる』というのはごく平易な言葉ですが、『人間にとって最大の喜びは何か』ということを言い当てていたように思います。人間は、まず自分のためを考えるようにできている、と思いやすいのですが、ほんとうのところは、そうではないのです。まわりの人の役に立てたときのほうが、ずっと大きな喜びを味わえることは、みなさんもよく体験されていることでしょう。
仏教では『諸法無我』と説かれていますが、これも『みんながまわりのために役立ち合うことで、この世界が成り立っている』ということなのです。法華経には、仏さまがこの世に出られたのは『一大事の因縁』があってのことです、と説かれています。その『一大事の因縁』というのは、私たちすべての人間に対して、仏の智慧というものを開き、示し、悟らせ、仏の智慧の道に入れることなのです。仏さまは、すべての人に『仏性』という仏になれる性質がそなわっているのだから、それをまっすぐに発揮させて、仏になる道を歩ませたいとおっしゃるのです。仏さまにそういう『一大事の因縁』があるのと同じように、私たちもまた大事な『因縁』があってこの世に生まれてきたのです。つまりは、みんなが大事な役をもって生まれてきているのです」と教えて頂きました。私たちは開祖さまから「まず人さま‼」という豊かな心と行いを教えて頂き、皆さまと共に平和な世の中を作り上げていく人生を歩ませて頂いております。
先祖供養という大役
続けて開祖さまは、「職場や地域社会で見ても、みんながそれぞれに役割をもっています。家庭にあっても、父として母として、あるいは妻や夫として、大事な役割があります。表面的に見れば、役には重い役、軽い役といった差があるように見えますが、どの役も欠くことのできない尊い役です。それを佼成会では『御役、御役』といってきました。
たとえば、何もできない生まれたばかりの赤ちゃんでも、にっこり笑って両親の心を幸せいっぱいにするという、他に代えられない大役を果たしています。私たちにはそれぞれ個性やもち味がありますが、みんながもち味を発揮して、その役割を果たしていくことが、その人にとって幸せですし、まわりの人の幸せにもなるのです。
もう一つ、私たちみんなに共通の大切な『お役』があります。それは、ご先祖さまのご供養をすることです。私たちがこの世に生まれてきたのは、両親があってのことで、さらには代々のご先祖さまがあってのことです。自分の命のおおもとであるご先祖さまを『仏さま』としてお祀りして、朝な夕なに真心をこめてご供養をさせていただく。それが、私たちの大事な『お役』なのです。『仏さま』というと、私たちはまず、『久遠実成の本仏』やお釈迦さまを思い浮かべますが、ご先祖さまも『仏さま』なのです。ごく身近な『仏さま』であるご先祖さまを、朝夕にご供養させていただくことが、ご本仏さまを供養することにつながっていくのです。そして、ご供養ができると、『自分は幸せをいただいている』という感謝の念が湧いてくるのは、自分が『仏さま』と一体になっているからです。
私たちはそれぞれ社会的、地域的にもいろいろな役を果たしています。その前に、私たちは先祖供養という大事な『お役』をさせてもらうために生まれてきたということを心にとめておくことが大事なのです」と開祖さまから先祖供養のありがたさを改めて教えて頂きました。心新たにさせて頂きましょう。